一発逆転の高級賃貸

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責任追及はあくまでも売り主へ、それでももし万がー自分が損害の一部を賠償するようなことになったとしても、責任の範囲は手数料報酬の額が限度なんだから、いざとなればそれを放棄すればよい。 こういう解釈が、業者の間ではまことしやかに流れているのである。
けれども、冷静に考えてみればこれは妙な話である。 損害賠償金額と手数料報酬額との間に、いったいどういう因果関係があるのだろうか。
この件について弁護士の先生に意見を聞いたところ、とても明快な答えが返ってきた。 「たとえば自分がタクシーに乗っててその車が事故って大ケガしたとしますよね。
そのときタクシーの運転手にタクシー代の六五O円はいらないからそれでカンベンしてよといわれて、世の中広しといえども納得する人はいませんでしょ。 それと似たようなもので、損害賠償の額は報酬の額を超えないというのは、あまり根拠がないんじゃないですかねえ」民法の第四一六条にあるように、買い主が「通常生ずべき損害の賠償」については仲介業者も責任を免れることができない、というのが法律の専門家からの意見なので法律の規制以上には調べず、説明もしない。
法律の条文については当然業者にとって都合のよいように解釈する。 説明の時点で返答に困るような質問など買い主から出ないように、できるだけ威圧的にふるまう。

後になって説明不足だと苦情が出たら、報酬を放棄すればそれで無罪放免、損害賠償の額はそれ以上に及ぶことはない。 不動産営業マンの常識はこのように超法律的なのだ。
こうして営業マンによって説明される重要事項は、今日も買い主の右耳から左耳へと、さりげなく通り抜けていいという言葉。 この言葉一つでどれだけ自分が不利な一日立場へと追い込まれてしまうことになるのか、相変わらず買い主はまったく気づいていない。
「じゃあ、後の細かなところは基本的に『現状有姿』ということで」中古マンションや中古の戸建てを買おうとして、現地に案内されて物件の説明を受けた後に、営業マンにこのような言葉で締めくくられると、妙に納得してしまう。 ところがこの「現状有姿」というフレーズこそ、要注意なのだ。
実際、不動産取引においてはこの言葉がとてもよく登場する。 いわゆる「現状有姿販売」もしくは「現況有姿販売」と称する取引方法が浸透しているからだ。
つまり不動産の引き渡しに関して、単に言葉の上での説明だけでなく、契約書の文面に「現状有姿のまま引き渡す」または「現況のまま引き渡す」という文言が記載されることが多い。 この言葉をその裏側に隠された意味も補足しながらわかりやすく言い換えると、「この中古物件を買っていただくにあたって、エアコンとかが売買の範囲に含まれているのかどうかなんて、ここで一つひとつ説明はしませんから。
現状見たまんまで引き渡すってことで、後は買い主さん自身で内容を確認してくださいね」ということになる。 こう書き直されて初めて、ずいぶん乱暴な言葉だと気づく人も多いはずだ。
これは売り主にとってはもちろん、取引の間に立つ営業マンにとっても、とても便利な言葉である。 壁にぶら下がっているエアコンが利きすぎるほど稼働しようと、壊れる寸前でロクに機能していない状態であろうと、「現状見たまんま」なんだから買い主さん、そっちで判断してよ、というのである。
この現状有姿という言葉、不動産業界ではたびたび耳にするにもかかわらず、業界特有の言いまわしであって、法律用語ではない。 となると、個々の契約のたびに解釈の食いちがいによるトラブルが続出するのが、むしろ当然なのである。

そこで、営業マンがこの言葉を使うことで、そこにどういった意味を込めようとしているのかについて、最初に多少整理しておいたほうがよいだろう。 「現状有姿」という言葉の裏には、次の三つの説明をとのたった一言で済ませてしまおうという、不動産営業マン特有の要領のよさを垣間見ることができる。
売買の目的物に含まれる範囲についての説明売買の目的物に関する状態についての説明売買の目的物にこれから手を加えないということの説明こういった契約当事者にとってはきわめて重要な内容を、営業マンは一つひとつ説明したうえで「現状有姿」という言葉で締めくくっているのではない。 「一つひとつ説明するなんて面倒じゃないですか」「正直なところ説明できるほど自分も実は把握してないんですよ」「私の力では設備なんかの状態について調査なんてもちろんできませんし、ましてやその説明なんでできるわけないじゃないですか」だからこそ、この便利な言葉を営業マンは使うというのである。
こういう営業マンの本音を耳にしてしまうと、トラブルがなくスムーズに契約成立、その後、買い主からなにもクレームがこないことのほうがかえって不思議に思えてくる。 さらに現実の取引においては、契約締結の時期と引き渡しの時期とが時間的にズレる場合の多いことが、トラブルをなおいっそう助長している。
契約時に全額即金で決済、それと同時に引き渡しという契約は珍しい。 契約締結時に手付金を入れて、その後中間金を払った後に、残金支払いと同時に引き渡しを受けるというのが、ごく普通の不動産取引における契約手順のパターンである。
そうなると今度は、どの時点での現状を「現状」とするのかが問われることになるわけだ。 普通、現状というのは、契約時の現状ではなく、引き渡し時の現状という解釈が不動産業界では一般的である。
したがって不動産営業マンがそういう解釈に立つかぎり、買い主からのこの件にまつわる苦情など受けつけるわけがない。 契約のときに作動していた給湯器が引き渡しのときに壊れていても、契約時にはたしかに暖房は作動していたのに季節が変わってしまい、冷房をつけてみたらまったく作動しなくても、網戸が破れて契約のときにはなかった大きな穴があいていたとしても、引き渡しの状態が現状といわれればそれまでなのだ。
営業マンが買い主に対して、「エアコン?それはもちろん付いてますよ」と説明していても、エアコンの性能や整備状況まで保証したとはいえないからだ。 「性能、整備状況ともに完壁ですよ」という虚偽の説明でもしていないかぎり、営業マンの責任追及はむずかしい。

それでは、売り主に対して責任を追及できるかというと、これもそう簡単ではない。 「いまにも壊れそうな現状」や「すでに壊れている現状」を知っていて故意に隠していたかどうかが、買い主として強く出られるか否かの判断の分かれ目になる。
やはり売り主が、相当悪質なウソをついていたことが立証できないかぎり、買い主からの契約解除理由にならないことはもちろん、これを根拠にした売買価格の多少の減額でさえそう簡単に実現できないだろう。 虚偽の説明にしても、故意に隠していたことにしても、買い主が明確に立証しないことには、売りつけた側の責任追及はむずかしい。
この立証責任が買い主にあること一つとっても、現状有姿販売においては買い主が圧倒的に不利な立場にあるといえるのだ。 「現状」がどんな状態かは誰もわからない中古物件を購入しようとする人は、現オーナーが居住中、つまり部屋の中に案内され、さっと見学してすぐに契約というパターンが少なくない。
この場合買い主は、設備機器類の性能などまったくといってよいほど確認できていない。

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